路上で暮らす若者
ホームレス、というとどんなイメージが浮かぶでしょうか?
道に座ったり、ダンボールで暮らしている年配の男性が想像されるのではないでしょうか。
この夏に訪れたイギリス・オックスフォード。
私が初めに目の当たりにしたホームレスは、一人の若い女性でした。
私が買い物を終えて通りをあるいていると、突然金髪の女性が目の前に飛び出してきました。
「助けてください!鞄をなくしてしまったんです」
その人はまだ二十代くらいで、黒いスーツの身綺麗な格好でした。
「とても困っているんです」
涙まで流して本当に悲しそうだったので、一瞬迷いましたが、冷静になって考えました。
本当に鞄をなくしたのなら警察に行くはずだし、見た目が明らかに外国人である私に助けを求めるはずがない。
きっと詐欺か何かに違いない。
「すみません、観光客なので」
と言って振り切ると、女性は「助けてください」と言いながらも追っては来ませんでした。
もしあの人が、本当に困っていたんだったらどうしよう。
そんな心配もしましたが、翌日に同じ通りを歩いたとき、私は再びその女性を見つけました。
彼女は、新聞紙を地面に敷いてぼんやり座っていました。
汚れたジャンパーにキャップ帽という、日本でもよく見るホームレスのスタイルになっていました。
彼女が私のほうを見たとき、ばちっと一瞬視線が合いました。
昨日の東洋人だと気づいたのか、女性は目を伏せてうつむきました。
私はオックスフォード滞在期間中、何度もその通りで彼女を見ることになりました。
彼女はたまにビッグ・イシューを売っている他は、いつもただ虚ろな表情で地面に座っていました。
それまで、ホームレスと言えば年を取った男性というイメージでした。
それ自体ももちろん悲惨なことですが、この女性の一件は私には大きなショックでした。
先進国在住の二十代の女性と言えば、若さと希望に満ちた人生を送っている姿を思い描くのに。
私と十歳も離れていないであろう女性が、何らかの事情で路上生活を余儀なくされている。
イギリスでの出来事は、日本でも決して人ごとではないのだろうと思います。
イギリスは格差・階級社会が根強いことで有名ですが、日本でも格差社会はますます顕在化しています。
「ワーキングプア」に「ネットカフェ難民」、若者の貧困を指す言葉は広まりましたが、その深刻さはまだ肌で感じられるほど意識されていません。
けれど若いホームレスは着実に増えつつあるといいます。
このまま行けば、近い将来、日本の大通りでは二十代の人々が新聞紙やダンボールを敷いて生活しているのではないだろうか。
本来なら人生の一番良い時間を過ごしているはずの若者が、寒い路上に虚ろに座っているのではないだろうか。
そんな不安を感じました。
貧困問題について考えるたび、「助けてください!」と言っていたあの女性を思い出します。
訪れた夏も冷え込んでいたイギリスは、これから冬に向けてますます寒くなっていきます。
あの路上の女性はこの冬をどうやって越えるのだろう、そんなことが今でも気にかかります。
(Y.H)
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